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大阪地方裁判所 昭和61年(ワ)2525号 判決 1988年3月22日

原告

池谷照子

被告

金森修次

主文

1  被告は原告に対し、金八二八万六九八四円及びこれに対する昭和六一年四月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを五分し、その四を原告の、その余を被告の負担とする。

4  この判決は、第1項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金三九四五万〇〇六〇円及び内金八三四万六四〇四円に対する昭和六一年四月三日から、内金二七四〇万三六五六円に対する同年九月一三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  第1項につき仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の発生

被告は、昭和五九年一〇月五日午後七時二五分ころ、普通乗用自動車(泉五八と四九三三号、以下「被告車」という。)を運転して大阪市東住吉区湯里一丁目一四番五号先路上を西から東に向かつて進行し、ユーターンしようとして自車を対向車線に進出させたところ、同車線を東から西に向かつて直進してきた原告運転の原動機付自転車(大阪市住う七四一二号、以下「原告車」という。)の右側面に自車前部を衝突させて転倒させ、原告に対し右足関節脱臼骨折、右肩打撲挫傷等の傷害を負わせた(以下「本件事故」という。)。

2  責任

被告は、被告車を所有し、これを自己のために運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、原告が本件事故により被つた後記損害を賠償する責任がある。

また、被告は、前記場所において被告車を転回させるに当たり、対向車線上を注視し、同車線を進行してくる車両の通過を待つて転回すべき注意義務があるのに、これを怠り、対向車線を時速約二五キロメートルで進行してきた原告車に気づかないまま時速約四〇キロメートルの速度で急激に転回をした過失により本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条に基づき、原告が本件事故により被つた後記損害を賠償する責任がある。

3  原告の治療経過及び後遺障害

原告は、昭和五九年一〇月五日から同年一二月一日まで(五八日間)東住吉森本病院に入院し、同月二日から昭和六一年五月二六日まで(五四一日、実日数一一六日)同病院に通院して治療を受けた。しかし、原告の前記傷害は、結局完治せず、昭和六一年五月二六日、<1>右足足首関節の運動可能領域が健側のそれの二分の一以下に制限され、<2>右足足首の強度の疼痛があり、<3>右足足首に手のひら大の醜状を残し、<4>右足小指薬指にしびれないし疼痛が、<5>右足足首から右膝にかけての痛みが、<6>右肩に疼痛が、<7>右肘に疼痛があるといつた後遺障害を残存させてその症状が固定するに至つた。原告の右後遺障害中、<1>は自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表(以下「等級表」という。)第一〇級一一号(「一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの」)に、<2><5><6><7>はそれぞれ等級表第一二級一二号(「局部に頑固な神経症状を残すもの」)に、<3>は等級表第一四級五号(「下肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの」)に、<4>は等級表第一四級一〇号(「局部に神経症状を残すもの」)にそれぞれ該当し、これらを併合すると、第一〇級に相当する。

4  損害

(一) 治療費 金二三六万六九二六円

原告は、前記病院に対する治療費として、少なくとも金二三六万六九二六円の債務を負担した。

(二) 付添看護費 金二二万九六二〇円

原告は、前記入院期間中付添看護を必要とし、昭和五九年一〇月五日から同月一八日までは職業付添婦の付添看護を受けて金一七万七八二〇円の債務を負担し、同月一九日から同年一二月一日までの一四日間、肉親の付添看護を受けて一日当たり金三七〇〇円、計五万一八〇〇円の費用を要した。

(三) 装具代 金三万五〇〇〇円

原告は、前記治療中装具の装着を必要とし、その費用として金三万五〇〇〇円の債務を負担した。

(四) 入院雑費 金五万八〇〇〇円

原告は、前記五八日間の入院期間中、一日当たり金一〇〇〇円、計五万八〇〇〇円の雑費を要した。

(五) 通院交通費 金一五万〇八〇〇円

原告は、前記一一六日の通院につき、一日当たり金一三〇〇円、計一五万〇八〇〇円の交通費を支出した。

(六) 休業損害 金一〇九八万〇六六六円

原告は、本件事故当時四一歳の健康な女子で、従業員一名及びアルバイト一名を使用して喫茶ロンシヤンを経営し、昭和五九年一月から同年九月までの営業実績は別表収支一覧表記載のとおりであつて、この間の月当たりの利益額は、金四六万五三四六円であつた。ところで、原告は、本件事故による受傷のため昭和五九年一〇月六日以降就労することができず、同日から同年一二月二日まではアルバイトを使用して営業を継続したが、右の間月額四六万五三四六円の利益を得られなかつたのみならず、合計三八万五三四八円の赤字を計上した。そして、原告は、同月三日以降その営業を停止せざるを得ず、昭和六一年二月二六日には営業の継続が不可能になつたためその営業を廃止したので、昭和五九年一二月三日から昭和六一年五月二六日までの間月額四六万五三四六円の利益を得られなかつた。また、原告は、昭和五九年一二月三日から昭和六一年二月二六日まで(四五一日間)の営業停止期間中、月額七万五〇〇〇円の家賃及び金三〇〇〇円の電話基本料の支払を余儀なくされ、この間の従業員の給料として金二四万円を支払わざるを得なかつた。そこで、原告の休業による損害は、次の計算式のとおり、金一〇九八万〇六六六円となる。

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(七) 後遺障害による逸失利益 金二四〇三万八七九四円

原告の後遺障害の内容・程度、職業、年齢は前記のとおりであるから、原告は、前記後遺障害により症状固定ののち就労可能な六七歳までの二五年間にわたりその労働能力を二七パーセントを喪失したものというべきであり、原告の本件事故当時の営業による収益は、前記のとおり月額四六万五三四〇円である。そこで、原告が右の間に失うことになる収益の総額からホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して後遺障害による逸失利益の症状固定時における現価を算出すると、次の計算式のとおり、金二四〇三万八七九四円となる。

465,340×12×0.27×15.944=24,038,794

(八) 慰謝料 金六五〇万円

原告が本件事故により被つた精神的、肉体的苦痛を慰謝するに足りる慰謝料の額は、入通院の期間に応じて算出した金二〇〇万円と、後遺障害の内容・程度に応じて算出した金四五〇万円の合計額である金六五〇万円が相当である。

(九) 弁護士費用 金四二〇万円

原告は、本訴の提起及び追行を弁護士である原告訴訟代理人らに委任し、その費用及び報酬として金四二〇万円の支払を約した。

5  損害の填補

原告は、被告から金四四四万円、被告車の自動車損害賠償責任保険から金二〇九万円の各支払を受けた。

6  結論

よつて、原告は被告に対し、4の合計額から5の既払額を控除した金四二〇二万九八〇六円の内金三九四五万〇〇六〇円の損害賠償金及び内金八三四万六四〇四円に対する訴状送達の日の翌日である昭和六一年四月三日から、内金二七四〇万三六五六円に対する訴変更申立書送達の日の翌日である同年九月一三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1の事実は認める。

2  同2の事実中、被告が被告車を所有し、これを自己のために運行の用に供していたものであることは認めるが、その余の事実は否認する(被告は、第一回口頭弁論期日において、原告の民法七〇九条の責任に関する事実を自白したものであるが、右は、真実に反し、かつ、錯誤に基づくものであるからこれを撤回する。)。

3  同3の事実中、原告が昭和五九年一〇月五日から同年一二月一日まで(五八日間)東住吉森本病院に入院して治療を受けたことは認めるが、その主張のような後遺障害が残存したことは否認し、その余の事実は知らない。仮に、原告に後遺障害が残存したとしても、原告は、自賠責保険の後遺障害の認定において、第一二級七号(「一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの」)に該当するものとされたのであつて、その後遺障害はこれを超えるものではない。

4  同4の事実中、入院雑費及び通院交通費に関する事実は認めるが、その余の事実は否認する。原告には付添看護の必要性はなく、その主張するような休業損害及び後遺障害による逸失利益は生じていない。原告の本件事故前の収入について、原告はどのような納税申告をしていたのか明らかでないのであるから、賃金センサスによる同年齢の女子労働者の平均給与額である月額一九万二八〇〇円とみるべきである。仮にそうでないとしても、原告は被告に対し、本件事故直後、昭和五九年四月から九月までの従業員の賞与は一五万円、パート分は一日三六〇〇円で一七三日分支払つたと説明していたが、その後、従業員の賞与は七万円、パート分は月額九万円で六か月分五四万円であると訂正したので、原告が提出した収支日計表をもとに原告の事故前六か月の平均月収を計算したところ、金三七万五六一四円であつた。そして、原告は、パートの従業員を追加して喫茶店の営業を継続するということであつたので、原・被告は、右の額の二分の一にパート料一〇万円を付加した月額二九万円を原告の休業損害の額とすることとし、被告は原告に対し、右の金額を内払してきたものである。原告は、自らが事故により就労不能になつたとしても、代替労働を使用してその損害を最少限のものにとどめるべき信義則上の義務があるものというべきであり、この見地からいつて原告の休業損害の額は、月額二九万円というべきである。仮にそうでないとしても、原告は、その後被告に対し、喫茶店営業を休業することになつたので、月額三八万円の休業損害を内払するよう強く求めたので、被告は二か月に限りこれに応ずることとし、結局四か月間右の額による内払を続けた。したがつて、原告の休業損害の額は、月額で右の三七万五六一四円又は三八万円というべきである。また、原告の就労不能期間は、骨融合が良好と認められ、抜釘術の行われた昭和六〇年七月二二日から一か月程度のちまでというべきであり、それ以降は本人の痛みが残つているだけで、いわゆるリハビリに専念していたものであるから、就労は可能であつたものである。なお、原告は、休業期間中に得られたであろう利益のほかに家賃や従業員の給料等をも休業損害として主張するが、これらは経費であつて、相当な損害とはいえない。また、原告に残存した後遺障害は、せいぜい等級表第一二級に該当するものにすぎないから、労働能力喪失率は一四パーセント、労働能力喪失期間は五年間とみるべきものである。

5  同5の事実は認める。

三  抗弁

1  過失相殺

本件道路は、幅員九メートルのその中央に道路中央線のある片側一車線の東西に走る道路であるが、被告は、右道路の北側車線を自車を運転して東進してき、右車線の左(北)側に自車を停止させ、自車の右前の合図灯を点灯させたうえ、自車の右側を東進する後続車両が途切れるのを待つて、転回するべく時速約五キロメートルの速度で自車を反対車線である南側車線に進入させたところ、同車線の中央付近(道路中央線から約一・七メートル南方)を時速約三〇キロメートルの速度で西進してきた原告車の右前輪付近に自車の右前部角付近を衝突させたものである。したがつて、原告にも、前方を注視し、反対車線から転回してくる車両との衝突を回避すべき注意義務を怠つた過失があり、この過失によつて本件事故が発生したものであるから、原告が本件事故により被つた損害の額を算定するに当たつては、原告の右過失を斟酌し、一割の過失相殺がなされるべきである。

2  損害の填補

被告は、原告に対し前記のほかに本件損害賠償として金二一三万七二四〇円を支払い、健康保険に対する求償として金三八万七三七七円を支払つた。

四  抗弁に対する認否

1  被告は、第一回口頭弁論期日において、本件事故の状況についての原告の主張事実(請求原因2の事実)を自白しているものであり、抗弁1の事実は、右自白を撤回するものであるから、これには異議がある。仮に被告の自白の撤回が有効であるとすれば、抗弁1の事実は否認する。

2  同2の事実中、原告が被告から金三万五〇〇〇円の損害賠償金の支払を受けたことは認めるが、その余の事実は知らない。

第三証拠

本件記録中の書証及び証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  事故の発生

請求の原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  責任

被告が被告車を所有し、これを自己のために運行の用に供していたものであることは当事者間に争いがない。したがつて、被告は、自賠法三条に基づき、原告が本件事故により被つた損害を賠償する責任がある。

三  原告の治療経過及び後遺障害

原告が本件事故による受傷のため昭和五九年一〇月五日から同年一二月一日まで(五八日間)東住吉森本病院に入院して治療を受けたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第三三号証の一ないし三、第三四、第三五号証、第三六号証の一ないし三五、乙第五ないし第一一号証、第一四号証の一ないし四、第一五号証の三ないし八、証人片平卓男の証言によれば、原告は、同月二日から昭和六一年五月二六日まで(五四一日、実日数一一六日)同病院に通院して治療を受けたこと、しかし、原告の前記傷害は、結局完治せず、昭和六一年五月二六日、同病院の主治医である片平卓男医師により、右足関節の可動制限(他動で背屈が右一〇度、左二〇度、底屈が右二五度、左四〇度、自動で背屈が右五度、左二〇度、底屈が右二〇度、左四〇度)、右足関節及び右足背部の腫張、右足関節全体・足下腿外側部・右肩から右上肢にかけての痛み、右足第四・五趾のしびれ感と痛み、右足関節部の外側の長さ六センチメートルの手術痕及び内側の一〇センチメートル×一四センチメートルの大きさの創痕を残存させて、同日その症状が固定した旨の後遺障害診断を受けたこと、原告の右足関節の可動制限及び右足各部・右肩から右上肢にかけての痛み・しびれ感・腫脹は、細い靱帯・神経・血管等が断裂等したことによつて生じた機能障害及び神経症状であると推測されるが、それ以上に損傷のか所を明確にできるようなものではなかつたこと、原告は、右の各後遺障害につき、被告車の自賠責保険に被害者請求したところ、等級表第一二級七号(「一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの」)に該当するものと認定され、これを不服として審査請求をしたが、右の結論は変更されなかつたことが認められ、原告が本件事故によつて被つた傷害が右足関節脱臼骨折、右肩打撲挫傷等であつたことは前記のとおりである。右の事実によれば、原告の右傷害は、右後遺障害診断のとおりの後遺障害を残存させて昭和六一年五月二六日その症状が固定したものであり、原告の右後遺障害中、右足関節の可動制限は、自動運動については右足関節の運動可能領域が健側のそれの二分の一以下に制限されたものであるが、他動運動については右足関節の運動可能領域が健側のそれの四分の三以下に制限されたものにすぎず、右機能障害の原因が十分明確でない本件においては、他動運動による測定値により等級表第一二級七号(「一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの」)に、右足関節部の手術痕及び創痕は、等級表第一四級五号(「下肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの」)にそれぞれ該当し、結局上位の等級である等級表一二級七号に該当するものと認めるのが相当である。原告は、右のほかに、右足各部及び右肩から右上肢にかけての疼痛及びしびれ感があるとして別個に等級表に該当する旨主張し、原告にその主張のような障害が残存していることは前記認定のとおりである。しかし、原告の右障害は神経症状で、原告に右足の機能障害のあることは前記のとおりであるところ、機能障害を残し、かつ、局部に神経症状を伴う場合には、これを個々の障害としてとらえるべきではなく、その全体を一つの障害としてとらえ、機能障害と神経症状のうち上位の等級により認定すれば足りるというべきであるから、原告主張の神経症状の存在が前記の認定判断を左右するものではないというべきである。

四  損害

1  治療費

成立に争いのない乙第一五号証の一、二、前掲同第一五号証の三ないし八によれば、原告は、前記病院に対する治療費として、金一九二万四四二〇円の債務を負担したことが認められる(なお、原告は、右のほかに社会保険によつて負担された治療費四三万〇四一九円も原告の損害であると主張するが、右の各証拠及び成立に争いのない乙第一五号証の九の一ないし三によれば右の治療費は社会保険に移転ずみであることが認められるから、原告の損害ということはできない。)。

2  付添看護婦

前掲甲第三三号証の一、乙第五号証によれば、原告は、昭和五九年一〇月五日から同月二九日までの二五日間、付添看護を必要としたことが認められ、前掲甲第三五号証、証人池谷洋幸の証言及び弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和五九年一〇月五日から同月一八日までは職業付添婦の付添看護を受けて金一七万七八二〇円の債務を負担し、同月一九日から同月二九日までの一一日間、姉の付添看護を受けたことが認められる。そして、右姉の付添看護費用は、経験則上一日当たり金三五〇〇円と認められるので、その付添看護費の合計額は、金三万八五〇〇円となる。なお、原告は、右の期間以降も原告は付添看護を要し、姉がこれに当たつた旨主張し、証人池谷洋幸の証言及び前掲甲第三五号証の記載中にはこれに副う部分があるが、これのみで右の期間以降の付添看護の必要性があつたものとは認めるに足りず、他にこれを認めるに足りる証拠は存在しない。

3  装具代

前掲乙第一五号証の二及び弁論の全趣旨によれば、原告は、前記治療中装具の装着を必要とし、その費用として金三万五〇〇〇円の債務を負担したことが認められるが、右の乙第一五号証の二によれば、右の装具代は、前記認定の治療費一九二万四四二〇円の一部としてこれに含まれていることが認められるので、これを重ねて本件事故による損害と認めることはできないものである。

4  入院雑費

原告が前記五八日間の入院期間中一日当たり金一〇〇〇円の雑費を要したことは当事者間に争いがないので、その合計額は、金五万八〇〇〇円となる。

5  通院交通費

原告が前記一一六日の通院につき一日当たり金一三〇〇円の交通費を支出したことは当事者間に争いがないので、その合計額は、金一五万〇八〇〇円となる。

6  休業損害

成立に争いのない甲第二号証の一ないし二四、第三号証の一ないし五、第四号証の一ないし九、第五号証の一ないし一一、原本の存在及び成立に争いのない乙第一号証の一ないし二九、前掲甲第三五号証及びこれによつて真正に成立したものと認められる同第一号証の一ないし一一、第六号証の一ないし一一、第七号証の一ないし一〇、第八号証の一ないし二一、第九号証の一ないし一一、第一〇号証の一ないし一八、第一一号証の一ないし二三、第一二号証、第一三号証の一ないし三、第一四号証の一ないし一三、第一五号証、第一六号証の一ないし一二九、第一七号証の一ないし三三、第一八号証の一ないし三、第一九号証の一ないし三八、第二〇号証の一ないし一一、第二一号証の一ないし六、第二二号証の一ないし八、第二三号証の一ないし二八、第二四号証の一ないし三、第二五号証の一、二、第二六号証の一ないし一一、第二七号証の一ないし六、第二八号証の一ないし一五、第二九号証の一ないし二七、証人池谷洋幸の証言及び原告本人尋問の結果(第一回)によれば、原告は、本件事故当時四一歳の健康な女子で、従業員一名及びアルバイト一名を使用して喫茶ロンシヤンを経営し、昭和五九年一月から同年九月までの間、少くとも別表収支一覧表売上額欄記載のとおりの売上げをしていたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。そして、前掲甲第二九号証の一ないし二〇、第三一号証の一、二、第三五号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は、右の間の右営業のための店舗の家賃及び従業員(アルバイトを含む。)給与として同表の家賃及び従業員給与欄記載のとおりの経費を要したことが認められ、更に前掲甲第二号証の一ないし九によれば、右の間の電話料金として金三万九二三〇円を、同第三号証の一ないし五によれば、昭和五九年一月から九月分までの水道料金として金四万八八六〇円(同年一月から一〇月までの水道料金は金五万八六六三円、同年九、一〇月分のそれは金一万九六〇六円であるから、同年一月から九月分までの水道料金は金四万八八六〇円と認められる。)を、同第四号証の一ないし九によれば、同年一月から九月分までのガス料金として金七万四三八一円(同年一月から一一月分までのガス料金は金八万九二七五円、同年九ないし一一月分のガス料金は金二万二四五四円、使用量は二九一立方メートルであるところ、九月分の使用量は九八立方メートルであるから、同年一月から九月分までのガス料金は金七万四三八一円と認められる。)を、同第五号証の一ないし九によれば、同年一月から九月分までの電気料金として金四六万一三六五円を、同第六号証の一ないし九によれば、右の間の有線放送料として金四万〇五〇〇円を、同第七号証の一ないし八及び弁論の全趣旨によれば、右の間の塵芥処理料として金三万六〇〇〇円を、同第八号証の一ないし一九、第九号証の一ないし九によれば、右の間の新聞代として金七万八三〇〇円を、同第一〇号証の一ないし一六及び第三五号証によれば、右の間の雑貨品購入費として金四万〇六七〇円を、同第一一号証の一ないし一九及び第三五号証によれば、右の間の玄関マツトリース料として金一万一四〇〇円を、同第一二号証及び第三五号証によれば、右の間の造花等の装飾品代として金一万四三五〇円を、同第一三号証の一ないし三及び第三五号証によれば、右の間の製氷機修理代として金一万四〇〇〇円を、同第一四号証の一ないし一〇、第一五号証、第一六号証の一ないし一〇八、第一七号証の一ないし二八、第一八号証の一、二、第一九号証の一ないし三四、第二〇号証の一ないし九、第二一号証の一ないし五、第二二号証の一ないし八、第二三号証の一ないし二六、第二四号証の一ないし三、第二五号証の一、第二六号証の一ないし九、第二八号証の一ないし一三及び第三五号証によれば、右の間の材料費として金二三八万四九〇二円を、第二七号証の一ないし六及び第三五号証によれば、右の間の文具代として金四二七〇円を、弁論の全趣旨によれば、右の間のガソリン代その他の経費として金一四万六三八五円をそれぞれ要したことが認められ、これを覆すに足りる証拠はないから、右の間の経費の合計額は、金六二九万〇二一三円となり、これを前記総売上額から控除した金四一四万二八七七円(月額四六万〇三二〇円)が右の間に原告が前記営業により得ていた利益の額と認められる。ところで、原告が本件事故により右足関節脱臼骨折、右肩打撲挫傷等の傷害を負い、昭和五九年一〇月五日から同年一二月一日まで(五八日間)東住吉病院に入院し、同月二日から昭和六一年五月二六日まで(五四一日、実日数一一六日)同病院に通院して治療を受けたこと、しかし、原告の右傷害は、結局完治せず、昭和六一年五月二六日、前記三において認定したような後遺障害を残存させてその症状が固定するに至つたことは前記のとおりであるところ、前掲甲第三三号証の一ないし三、第三六号証の一ないし三五、乙第五ないし第一一号証、弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認められる同第一三号証の一ないし三、証人片平卓男の証言によれば、原告は、右病院を退院した後も三、四か月間は長時間の起立荷重及び運動によつて腫脹、疼痛が増悪するため就労することができない状態にあつたが、昭和六〇年五月一〇日ころには荷重のため疼痛は残存するものの、腫脹は軽減し、喫茶店業務に復職するのが不能とはいえない状態にまで回復していたこと、原告の骨折は、骨融合が良好であつたので、同年七月二二日には抜釘術の施行を受け、そのため約一か月間就労不能の状態が続いたこと、原告の症状は、同年九月ころからは復職可能(ただし、軽作業だけ)の状態となつたが、昭和六一年二月一九日には腫れが大になつたのでリハビリを中止し、同年三月一二日にはリハビリを再開するとともに、担当医師から就業の指示を受け、以後同じような症状が継続して症状固定に至つたことが認められ、右認定に反する甲第三五号証の記載及び原告本人尋問の結果(第二回)は、右の各証拠に照らしてにわかに信用することができず、他に右の認定を左右しうるような証拠は存在しない。右の事実によれば、原告は、昭和五九年一〇月五日から昭和六〇年三月三一日まで及び同年七月二二日から同年八月二一日まで(二〇九日)は全く就労可能であり、同年四月一日から同年七月二一日まで及び同年八月二二日から昭和六一年二月一八日まで(二九三日)は五〇パーセント、同月一九日から同年三月一一日まで(二一日)は七〇パーセント、同月一二日から同年五月二六日まで(七六日)は三〇パーセントその労働能力に制限を受けたものと認めるのが相当である。しかるところ、前掲甲第一号証の一〇、一一によれば、前記ロンシヤンの昭和五九年一〇月及び一一月分の売上高は、金一四〇万七五四〇円に減少し、弁論の全趣旨によれば、右ロンシヤンは、同年一二月三日以降営業を停止し、昭和六一年二月二六日には営業を廃止したので、昭和五九年一二月三日以降は全く売上のなかつたことが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。そして、前掲甲第二九号証の二一ないし二六、第三一号証の一、二、第三五号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和五九年一〇月及び一一月の右営業のための店舗の家賃として金一五万円を、従業員(アルバイトを含む)給与として金八七万一六〇〇円を、同第二号証の一〇、一一によれば、右の間の電話料金として金八九九〇円を、同第三号証の五及び弁論の全趣旨によれば、右の間の水道料金として金一万四七〇五円(同年九、一〇月分の水道料金は金一万九六〇六円であるから、同年一〇月分の水道料金はその半額程度と認められるところ、弁論の全趣旨によれば、同年一一月にも少なくともその更に半額程度の水道料金を要したものと認められるから、同年一〇、一一月分の水道料金は金一万四七〇五円と認められる。)を、同第四号証の九によれば、同年一〇、一一月分のガス料金として金一万四八九二円(同年九ないし一一月分のガス料金は金二万二四五四円、使用量は二九一立方メートルであるところ、同年一〇、一一月分の使用量は一九三立方メートルであるから、右の間のガス料金は金一万四八九二円と認められる。)を、同第五号証の一〇、一一によれば、右の間の電気料金として金九万〇二二六円を、同第六号証の一〇、一一によれば、右の間の有線放送料として金九〇〇〇円を、同第七号証の九、一〇によれば、右の間の塵芥処理料として金八〇〇〇円を、同第八号証の二〇、二一、第九号証の一〇、一一によれば、右の間の新聞代として金一万七四〇〇円を、同第一〇号証の一七、一八、第三五号証によれば、右の間の雑貨購入費として金二八二五円を、同第一一号証の二〇ないし二三、第三五号証によれば、右の間の玄関マツトリース料として金二四〇〇円を、同第一四号証の一一ないし一三、第一五号証、第一六号証の一〇九ないし一二九、第一七号証の二九ないし三三、第一八号証の三、第一九号証の三五ないし三八、第二〇号証の一〇、一一、第二一号証の六、第二三号証の二七、二八、第二五号証の二、第二六号証の一〇、一一、第二八号証の一四、一五及び第三五号証によれば、右の間の材料代として金三八万五九五六円を、弁論の全趣旨によれば、右の間のガソリン代その他の経費として金一一万七一七八円をそれぞれ要したことが認められ、これを覆すに足りる証拠はないから、右の間の経費の合計額は、金一六九万三一七二円となり、右の間に金二八万五六三二円(月額一四万二八一六円)の赤字を計上したことが認められる。したがつて、原告は、本件事故に遭わなければ、昭和五九年一〇月五日から同年一二月二日までの五九日間、月額四六万〇三二〇円の営業利益を得るとともに、月額一四万二八一六円の負債を負うこともなく、同月三日から昭和六〇年三月三一日まで及び同年七月二二日から同年八月二一日まで(一五〇日)は、右の月額四六万〇三二〇円の営業利益を、同年四月一日から同年七月二一日まで及び同年八月二二日から昭和六一年二月一八日まで(二九三日)はその五〇パーセント、同月一九日から同年三月一一日まで(二一日)はその七〇パーセント、同月一二日から同年五月二六日まで(七六日)はその三〇パーセントの営業利益を得ることができたものと推認するのが相当である。そこで、原告が本件事故によつて被つた休業損害の額を算出すると、次の計算式のとおり、金六三一万一〇六三円となる。

{(460,320+142,816)÷30×59}+(460,320÷30×150)+(460,320÷30×293×0.5)+(460,320÷30×21×0.7)+(460,320÷30×76×0.3)=6,311,063

なお、原告は、昭和五九年一二月三日から昭和六一年二月二六日までの四五一日間営業停止の必要があつたとして、この間の家賃、電話基本料、従業員に支払つた給料に相当する金額の賠償を求めるが、前記のように本件事故当時の売上額から諸経費の額を控除して営業利益の額を算出し、これをもとに右の間の得べかりし利益を算定する以上、右の家賃、電話基本料、従業員に支払つた給料相当分は、いずれも経費の一部をなすものであつて、これを休業損害として重ねて請求することはできないものである。

7  後遺障害による逸失利益

原告の後遺障害の内容・程度、職業、年齢は前記のとおりであるから、原告は、前記後遺障害により症状固定ののち一〇年間にわたりその労働能力を一四パーセント喪失したものと認めるのが相当であり、原告の本件事故当時の営業による収益は、前記のとおり月額四六万〇三二〇円である。そこで、原告が右の間に失うことになる収益の総額からホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して後遺障害による逸失利益の症状固定時における現価を算出すると、次の計算式のとおり、金六一四万四〇九〇円となる。

460,320×12×0.14×7.9449=6,144,090

8  慰謝料

原告が本件事故により被つた傷害及び後遺障害の内容・程度その他本件において認められる諸般の事情に照らせば、原告が本件事故により被つた精神的、肉体的苦痛を慰謝するに足りる慰謝料の額は、金三二〇万円と認めるのが相当である。

9  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、原告が本訴の提起及び追行を弁護士である原告訴訟代理人らに委任し、その費用及び報酬として相当額の支払を約したことが認められるところ、本件事案の内容・審理経過・認容額等に照らせば、このうち本件事故と相当因果関係に立つ弁護士費用は金七五万円と認めるのが相当である。

五  過失相殺

記録によれば、被告は、第一回口頭弁論期日において、本件事故の状況についての原告の主張事実を認めていたところ、第八回口頭弁論期日において、右の事故状況と異なる事故状況を主張して過失相殺の主張をするに至つたことが明らかである。右は、事故状況についての被告の自白の撤回というべきであるから、右自白が真実に反するものであるかどうかにつき検討するに、成立に争いのない乙第一二号証の四ないし六、原告(第二回、後記措信しない部分を除く。)及び被告各本人尋問の結果によれば、本件道路は、幅員九メートルのその中央に道路中央線のある片側一車線の東西に走る道路であるが、被告は、右道路の北側車線を自車(長さ三・八二メートル、幅一・五三メートル)を運転して東進してき、右車線の左(北)側に自車を停止させ、自車の右前の合図灯を点灯させたうえ、自車の右側を東進する後続車両が途切れるのを待つて、転回するべく時速約五キロメートルの速度で自車を反対車線である南側車線に進入させたところ、同車線の中央付近(道路中央線から約一・七メートル南方)を時速約三〇キロメートルの速度で西進してきた原告車の右前輪付近に自車の右前部角付近を衝突させたことが認められ、右認定に反する原告本人尋問の結果は、その内容が不自然、不合理で、右の各証拠に照らして信用することができず、他に右認定を左右しうるような証拠は存在しない。してみると、被告が自白した前記原告の事故状況についての主張事実は、真実に反するものであることが明らかであるから、被告の右自白は、錯誤に基づくものと推認すべきであり、その撤回は有効というべきものである。しかるところ、本件事故の状況は、右に認定したとおりであつて、右認定の事実によれば、原告にも、前方を注視し、反対車線から転回してくる車両との衝突を回避すべき注意義務を怠つた過失があり、この過失によつて本件事故が発生したものというべきであつて、原告の損害額の算定に当たつては、原告の右過失を斟酌し、一割の過失相殺減額をするのが相当である。

六  損害の填補

請求の原因1の事実及び同2の事実中原告が被告から金三万五〇〇〇円の損害賠償金の支払を受けたことは当事者間に争いがなく、前掲乙第一五号証の一ないし八及び弁論の全趣旨によれば、被告は原告に対し、右のほかに本件損害賠償として金二一〇万二二四〇円の支払をしたことが認められる(以上合計八六六万七二四〇円)。なお、被告は、右のほかに健康保険に対する求償分として金三八万七三七七円の既払の主張をするが、右の治療費がそもそも原告の損害といえないことは前記のとおりで、その求償を受けた分も原告に対する関係では損害の填補ということはできないものである。

七  結論

以上の次第で、原告の本訴請求は、四の1、2、4ないし8の合計額に一割の過失相殺減額をし、これから六の既払額を控除し、これに四9の弁護士費用を加えた金八二八万六九八四円の損害賠償金及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和六一年四月三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山下満)

別表 収支一覧表

file_3.jpgEARS al eb cD [ae cD | RRABS Sie mE | Hise PD 1 1,017,580 75,000 207,000 ‘317,457 418,123 2 1,122,190 75,000 243.000 378,582 425,608 3 1,176,460 75,000 243,000 406,927 451,533 4 1,150,190 75.000 246,600 320,733 507,857 5 1,212,040 75,000 239,000 394,566 509,474 6 1,210,430 75,000 243,000 321,630 570,850 T 1,181,010 75,000 243,000 386,390 476,620 8 1,143,390 75,000 313,000 435,725 319,665 9 1,213,750 75,000 243,000 387,364 508,386 it 10,433,080 675,000} 2,220,600] 3,349,374) 4,188,116

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